バイオリンの裏板が1枚か2枚か、虎杢がはっきり出ているか否かはバイオリンの良し悪し、音の良し悪しに関係があるのでしょうか?
「バイオリンは作りの良いもの、綺麗なものを選びなさい」と先生や、先輩、楽器に詳しい知人の方などから言われたことはないでしょうか?
たしかに、バイオリンの製作精度、つくりの良さはバイオリンの性能、ひいては音の良さに結びつくことが少なくありません。ですから、作りの良いバイオリン、綺麗なバイオリンを選ぶことはあながち間違いではありません。
しかし、そう言われると多くの方は、裏板の杢(虎杢)や、2枚板か1枚板かなどで判断してしまいがちです。
実は、楽器のプロ、弦楽器商は裏板の杢の見え方や裏板が1枚か2枚かというようなことで、楽器の製作精度、作りの良さなどを判断していないのです。
確かにバイオリンの裏板の模様、杢には特徴があり、一台一台皆それぞれ違っています。また、杢がはっきりしているバイオリンならば、1枚板の方がより美しく、綺麗に見えたりすると思います。
バイオリンの裏板は2枚で作る場合と1枚で作られる場合とどちらもあります。
しかしながら、音響学的にどちらが優れるか、音が良いかについては、手工品という性質上、また木材という天然の材料を使用する以上
全く同じ条件で、裏が1枚板と2枚板の楽器を作り分けて比較することは不可能なのでその結論は出ません。というよりその比較自体が無理なのです。
材料となる板は硬さや密度、乾燥の度合などが木ですから、金属やプラスチックのように均一ということはなく、必ず一枚一枚微妙に違います。
また、手工品であれば同じ製作者が同じ時期に作ったとしても、2台を完全に同じに作ることはできません。
つまり裏板が1枚であるか2枚であるか、それ以外の条件を同一に揃えて製作することが不可能なので、たとえ比較したとしても結論は出せないのです。
これは余談ですが、表板は99% 2枚板で作られています。
よくよく注意して見ないと1枚のように見えることが多いので、たまたま光線の加減などで、わかりやすく2枚に見える楽器があると、お客様から「このバイオリンの表板は2枚板なのですね!」とびっくりしたように言われますが、それは全く普通のことなのです。
裏板の木目の目立つものとはっきりしないものとがあります。横に走っている木目は実は年輪ではありません。非常に判りにくいのですが、縦にうねって走っているのが年輪なのです。
裏板の木目の模様のことを杢といい、横にはっきりと出るので虎杢と呼んだりもします。その他、珍しいものとしては鳥目状の模様が出るものもありバーズアイと呼ばれています。
杢が出る理由は楓の幹がぐねぐねと曲がっていて、しかも成長が遅く不規則に育つことで繊維が複雑に交錯するからだと言われております。杢がはっきりと綺麗に見える材料は、やはり数が少ないために高価になります。
音響学的には、杢の有無、杢の出方によって音の優位差は無いとされています。これも、先ほどの裏板が1枚と2枚とで音がどう違うかという論争と同じく、どちらにしても完全な同一条件下で音を比較することが不可能ですので。
かの名工、ストラディヴァリも若い頃はお金がなかったため、高価な杢のはっきりした材料を購入することが出来ず、杢のはっきりしない素杢の材料で、バイオリンも何台も作っています。
しかし、それらも銘器として高価な金額で取引されています。ですから裏板の杢の出方、見え方は音には関係ないと考えて良いのです。
【まとめ】
裏板が1枚か2枚か。裏板の杢(虎杢)がはっきり出ているか否かは音には全く関係ありません。
もちろん、つくり、性能、音、弾き易さ等が全く遜色のない楽器の中で選ばれるのでしたら、好みの裏板の杢のものをお選びになられることは全く問題はありません。最初から裏板の虎杢や1枚板ということで(綺麗な楽器だと判断して)選んでしまってはいけないということです。