バイオリンの音、音色を言葉で表現する、伝えることの難しさについてお話したいと思います
お客様にどのようなバイオリンをお探しですかと問いかけると、結構な確率で帰ってくるお答えが
「甘い音、音色のバイオリン」
であったり
「艶のある音のバイオリン」
であったりします。
バイオリンの音を言葉で表現するのは難しいですね。
私はそこで一応考えてみます。
甘い音、艶のある音ってどんな音?
甘い音はおそらくは、発想記号のdolce (ドルチェ)から甘い、甘美な、優しいから連想される音、音色なのではないかと私ながら想像いたしました。ご承知のように、ドルチェとはイタリア語のデザート、甘いお菓子から来ています。男女の甘い関係という方もいらっしゃいます。それはともかく、バイオリンの音色としてはどのような音になるのでしょうか?
ある方は、抜け切らない、ちょっとこもった音のバイオリンの音を称して、「甘い音色だねー」とおっしゃっていました。
その楽器の音は、私の判断では、決してキンキンするタイプではないのだけれど、板が厚くてまだ鳴りきらないイタリア系の新作、あるいはモダンバイオリンという印象で、鳴りきらない、良く鳴らないために結果的に優しい音なだけなのではと思うようなものでした。
しかし、こういう音に「甘い」という表現、プラスの表現を使うのだなと思ったのでした。
もっと想像がつかないのは「艶のある音」というやつです。
艶とは光沢のことなのか? 色気、色っぽさの意味なのか?そしてそれはどういう音に使われるのか?
伸びのある音、輝かしい音、妖しい音、艶かしい音・・・
これは色々なお客様が「艶」ということばをお使いでしたが、とうとう確たるイメージを私が持つことはできませんでした。
先に、「甘い」というのは、発想記号 dolce と関係があるのではと申し上げましたが、甘い音、艶のある音というのは、バイオリン固有の音ではなく、演奏者が作り出すもの、曲を演奏するにあたっての表現方法なのではないかと私は思うのです。
それは、プロの演奏家の場合は個性や芸風といったもので、つまるところは演奏技術、ボーイングやヴィブラートなど、大家と言われる人であれば、その人独特の弾き方によって生み出されるものだと思うのです。
もちろん音楽、演奏の世界は、感性の世界、最終的にはイメージの世界であって良いと思います。
しかし、楽器選びにそのイメージをあまり持ち込んでしまうのは危険だと思います。
なぜなら、そのイメージは、私の求める「甘い音とは」こういうものですと、果物の糖度のごとく数値化するのは難しい性質のものですし、またイメージというものは、いつも一定ではなく、時期、体調、気分等で移り変わりやすいものだからです
もちろん、イメージ通りに弾ける、イメージが実現できるというのは演奏家にとって大事だと思いますが、甘い音、艶のある音は、楽器の音もその一部ではあるとは思いますが、おそらくその大部分は演奏家固有のもの、演奏家自身が出している音なのです。ですから、楽器の中にそれを求め、楽器の中のその多寡を判断しようとしても難しいのです。
グリュミオーはどのバイオリンを弾いてもグリュミオーの音がするでしょうし、ハイフェッツはどのバイオリンを弾いてもハイフェッツの音が出せるでしょう。
ですから、好きなバイオリンの音は、「甘い音色」、「艶のある音」、「グリュミオーの音」とお客様がおっしゃられても、その音色はみな、演奏者自身が作り出す音ということなのです。
じゃあ、そのような音色やイメージではバイオリンが選べない、イメージは安定していないし、弾き手自身の中にあるものでバイオリンの中に存在するものではないので、いくら探しても満足いくものに出会えないと言うのならのならどうしたら良いのか・・・
というのが本日の本題でして、
主観ではなく、客観的な指標でバイオリンの良し悪しを判断できないかというのが私の考えです。
そしてその客観的な指標も、音量、4弦のバランス、ダイナミクスの幅、発音(レスポンス)などいくつか挙げられますが、ここで一つ有力な指標として、『発音』という指標をとりあげさせていただきました。
下の動画ではそれについて解説しております。