大変です、今バイオリンの f字孔の中を覗いて見たら、魂柱にキズが入っていることに気がつきました。
これって大丈夫なのでしょうか?ひょっとして不良品ですか?
ときどき、このような質問をいただくことがあります。
結論から申し上げれば、心配されるような傷ではありません。もちろん不良品でもありません。
このキズは必要に応じて生じてしまっているものなのです。
バイオリンの f字孔の中を覗くと、魂柱(英語ではSound post)という丸い棒が立っています。
魂柱は表板と裏板の間に立てられ、表板と裏板をつないでいます。
弦から駒へ、駒から表板へ伝わる弦の振動をさらに裏板へと伝える大事な役割をする部品です。
そのため、魂柱の位置や表板、裏板への密着度はバイオリンの音に大きく影響するのです。
ですから立っているとはいえ、上記のように音の調整のために、魂柱の位置は自由に動かせるようになっていないといけないので、魂柱はニカワなどで接着、固定されてはいないのです。
その魂柱を接着せずにどうやって立てるかというと、実は、f 字孔から魂柱を入れているのです。
そのときに、魂柱をつかんではf字孔の狭い隙間からは入れにくいので、魂柱立てという器具で、魂柱を刺して入れるのです。
そうです、気になったキズというのはその刺したときにできるものなのです。
そして、その後に駒からの距離や、表板と裏板への密着度、圧力が最適になる場所に魂柱を動かします。
理想的な位置というのはだいたい決まりますが、そこからは音を聴きながら、奏者の好みに合わせて微調整します。
バイオリンは木でできていますので、どうしても季節の変化、湿度の上下などで表板、裏板の間隔が膨らんだり、縮んだりします。一方魂柱自体はほとんど伸び縮みせず、長さは変わりません。そうすると、魂柱の表板裏板への密着度、圧力が微妙に変わってきてしまうのです。そうすると音にも影響してきます。
そのときは、魂柱を取り出して魂柱の面を削り直して、再度立てるというような調整もいたします。そして再度魂柱を立て直すことになるのですが、その際は以前できたキズ跡に魂柱立てを刺しますので、キズがいくつも増えていくということはありません。